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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)4804号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで、被告らの請求原因について審究する。

1、被告木下の責任原因

本件事故当時事故車の登録名義が被告木下であつたことは当事者間に争いがなく、昭和四二年一〇月上旬ごろ、同被告が事故車を所有していたことは、同被告の自陳するところである。しかして、同被告は昭和四二年一〇月一二日訴外三井大次郎を介して被告下村に事故車を売却し、事故当時既に事故車の実質上の支配権を喪失していた旨主張するので按ずるに、証人木下好助の証言によると、①事故車は昭和四二年五月九日付で登録原簿に同証人の父たる被告木下の所有として登録されその所有に帰していたこと、②これを当時から同証人が通勤用に使用していたこと、③同年一〇月上旬同証人において事故車の売捌方を友人である訴外三井大次郎に依頼したところ同月一一日ごろ右三井が伊藤一成を同道して木下好助の勤務先に現われ、試乗を申出たので同人らに事故車を持ち帰らせたこと、④本件事故後原告の娘婿訴外高島安秀が被告木下方へ来て「車は誰のものか」と質したので「本人に聞いてみないと分らない」旨返答し、昭和四三年三月二七日事故当事者である被告下村方へ前記三井、伊藤、高島と証人木下らが集り、話合つた結果「昭和四二年一二月二五日付で被告木下から被告下村が事故車を譲受けた」こととする旨の話合が成立したこと、が認められる。しかして、証人三井大次郎は、①昭和四二年夏ごろ、友人である前記木下好助から事故車を一〇万円位で売却する意思のあることを聞き、同年一〇月ごろ右三井の友人で百科辞典のセールスをしている伊藤一成から、車を欲しがつている人がいると聞き、そのころ、右伊藤をともなつて木下好助の勤務先に赴き、同人の承諾のもとに伊藤において友人に見せたいとの理由で事故車を預つて持ち帰り、②その後伊藤において三井に対し右伊藤の友人が七万五、〇〇〇円で買う旨回答し、③その後一、二カ月して右買主は三井において面識のない被告下村であることがわかり、伊藤が被告木下の仲介をした形であると理解し、④昭和四三年三月二七日被告下村方へ右三井、前記伊藤、木下好助、高島らが集まり、被告下村と右伊藤との間に別段いざこざもなく、昭和四二年一二月二五日に被告木下から被告下村が事故車を譲受けたこととする旨の話合が成立した、旨述べ、証人伊藤一成は、①昭和四二年一〇月一〇日頃前記三井の仲介で事故車を木下好助から代金七万五、〇〇〇円で買受け、②右代金は右三井に立替え払いをしてもらい、③同年一二月三〇日まで同証人において事故車を使用し、同日、被告下村へ代金五万五、〇〇〇円で売却して引渡し、それと引き換えに代金の一部として金六、〇〇〇円を同被告から受取り、④昭和四三年春ころ、前記高島から本件事故の賠償問題につき被告下村では埓があかないとて前記のとおり、数名が同被告方に集り、被告木下に賠償義務が存在しないようにするため、昭和四二年一二月二五日付で被告木下から被告下村への事故車の譲渡が完了していたことにする旨の話合が成立した、旨述べている。そして、被告下村は、この間の事情につき、①昭和四二年一一月末ごろ、前記伊藤が事故車を使用しているのを見、その後同人から、前記三井との共有物であると聞いた憶えもあり、②事故の前日即ち昭和四二年一二月三〇日、右伊藤が事故車を運転して同被告方に来た際それを買わないかとの話が出たので、同被告において右伊藤の所有物と思い買つてもよい旨の返答をし、試運転をかねて、右伊藤を送りとどけた後に本件事故を惹起し、その後初めて、事故車の登録所有名義が被告木下になつていることを知り、③昭和四三年春ごろ、前叙のとおり数名が同被告方に集つた際、賠償関係で他の者に迷惑をかけたくない気持から、同被告において、事故の日以前に被告木下から事故車を譲受けたこととする旨の話合をした、旨供述している。

以上の各供述を総合すると、本件事故の少くとも一カ月以上以前から、前記伊藤が専ら事故車を使用していたこと、本件事故の前日、被告下村が、これを買取る意思のもとに事故車を運転したことはこれを認めることができるけれども、被告木下の主張する昭和四二年一〇月一二日に同被告において前記三井を介し、被告下村へ代金七万五、〇〇〇円で売却し、その代金の授受と事故車の引渡を完了していたものとは到底認め難い。

尤も、前記のとおり証人伊藤は、「昭和四二年一〇月一〇日ごろ、右伊藤が事故車を代金七万五、〇〇〇円で買受け、右代金をその友人三井において被告木下に対し立替え支払つた」旨供述しているけれども、自動車の売買による所有権移転が印鑑証明等所定の手続等を要する可成り面倒なものであり、しかも、いついかなる事故を惹起するやも知れない危険なものであること等は被告木下において当然配慮して然るべきものと思われ、されば、法的な手続はともかくとして、売買契約書の作成、代金領収の書面の取りかわし程度のことは、少くともこれを完了して、実質的所有権の帰属を明らかにすべき筈のものと考えられるところ、かかる書面は一切存しないとの前記木下、三井、伊藤各証人の証言からすれば、右代金授受の時点に関する証言はにわかに措信しがたく、それ故、被告木下主張の時点において買主が特定し、売買契約が成立したものとは到底認め難い。

これを要するに、本件事故当時、被告木下が事故車の実質的所有権を喪失していたとの抗弁はその証明が不充分であるといわざるを得ず、前認定の事実からすると、事故当時事故車が被告下村の事実上の支配(運転)に属したことは、被告木下の意思に基づくものと推認されるから、同被告は、本件事故につき自賠法三条の運行供用者責任を免れ得ないものといわなければならない。 (中村行雄)

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